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院 長 コ ラ ム |

佐倉歯科口腔クリニック 〒330-0856埼玉県さいたま市大宮区三橋2-19-1 TEL:048-645-5558 FAX:048-645-5481 |

DATE |
タイトル |
2021/2/5 |
No367 コロナカ禍で見逃された舌癌 |
私が所属している近代口腔科学研究会の会員で、秋田県で開業している先生の経験談です。
患者さんの職業は長距離トラックの運転手です。居住地は秋田県ですが、頻繁に関西方面と北東北を往来しているため、その都合により2020年4月から兵庫県内の歯科医院に通院していました。
5月ごろから舌の横がしばしば奥歯に触れて痛みを自覚するようになりました。患者さんはその頃に舌の同じ部位に「口内炎」ができて、そのことを通院中の歯科医院で何度も伝え、歯がぶつかる所を削ってほしいなどと訴えましたが、とくに何もしてもらえませんでした。
7月下旬になってもその部位の「口内炎」は治らずにありましたが、その時も受診した際には舌に対して何もしてもらえず、通常の何らかの「歯の治療」をしてもらったというのです。
8月に入ってからその舌の病変が急に大きさを増し、さらに首の方まで痛くなってきたため、居住地である秋田県内に戻った際に数件の歯科医院に受診したい旨を伝えましたが、県内外を頻繁に往来していることを理由に受診をすべて断られてしまいました。
そのあと近代口腔科学研究会会員の勤務する歯科医院を受診しました。
舌には3p×2pほどの隆起した潰瘍があり、明らかに悪性の腫瘍を疑う所見が見られました。その後患者さんは紹介された大学病院の歯科口腔外科で病理組織検査を行ったところ舌の扁平上皮癌と診断されました。
この症例の患者さんは長距離トラックのドライバーです。このコロナ禍においても私たちの生活を支える重要な役割を担っています。医療物資だけでなく、全ての物が当たり前のように使え、消費できるのは、それを運ぶ人がいるからです。
その職業の患者さんがただ単に頻繁に県内外を往来していることを理由に、数件の歯科医院に一瞥だにされず受診を断られていたというのは、非常に腹立たしいことです。
新型コロナウィルスを恐れるあまり、一人の舌癌の患者さんを死なせるところだったかもしれません。
舌の痛みや変化について患者が何かを訴えても、それには一切耳を貸すことなく何らかの「歯の治療」をしていたというのだから呆れるばかりです。
その歯科医が歯科医師なのかデンティスト(歯大工、歯の修理工)なのかという問題よりも、もっと根本的に人間として問題があると言わざるを得ません。
コロナ禍であろうとなかろうと、歯科医師としてやるべき職務を能力の限り全うすることに尽きるのではないでしょうか。
今回の院長コラムは、「近代口腔科学研究会雑誌第46巻3号」に掲載された秋田県の奈良宏周先生の論文を引用し一部改変させていただきました。
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